本シリーズは、NPO法人Rightsを代表し、2017年にドイツ連邦外務省が実施した「ドイツの政治教育」に関する招聘視察に参加したメンバーの土肥がその記録をまとめたものです。

ドイツは独裁政権の経験を経て、民主主義体制を覆す自由を認めない「戦う民主主義」を国の理念としてきました。とりわけ世界的に先進的とされているのが「政治教育」です。また、学校内のみならず、学校外の多様な主体が政治教育に関わっており、多面的重層的実践がドイツ国内で展開しています。日本においても2015年に選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法の改正があり、子ども・若者の政治教育(主権者教育)が大きなテーマになっています。ドイツの長い実践は、日本にとって大きな示唆があると考えています。なお、NPO法人Rightsでは2014年にドイツスタディツアーを実施しており、その際にも「ドイツの子ども・若者参画のいま」という報告書を発行しています。

今回は、各州文部大臣会議(KMK)のヒアリングメモを紹介します。

 

先方:アンドレア・シュヴェアマー(学校部)

各州文部大臣会議(KMK)について

常設各州文部大臣会議が正式名称。(以下、KMK:Kultusminister Konferenzと表記) こうした国家機関は世界にはあまり存在しないと考えている。なぜドイツにこのような機関があるかというとナチスの大きな罪を犯したという歴史的な反省が大きな要素になっている。この会議はドイツの16州を取りまとめている。各州はそれぞれ多様であり、教育制度も多様である。ドイツでは教育制度の管轄が州に与えられている。つまり16の教育制度・学校制度が存在している。

制度が全く異なるとドイツ国内は混沌としてしまうことから、それを調整するために各州文部大臣会議が存在している。例えば、小学生の間に違う州に引越しをしたりすれば、その子どもは違う教育を受けることになってしまう。そこで、ドイツ全体での大枠の枠組みをつくることがこの会議の目的。各州文部大臣会議は、1948年に発足している。1949年の西ドイツ発足よりも前に発足しており、これは各州文部大臣会議の誇りになっている。

KMKの仕事について

1、各州における学校の修了の同等性を確保する

2、職業訓練の企画

3、大学の品質基準の確保

4、教育機関・教育機関・文化機関の連携

5、各州の関心を連邦に対して代表すること

6、国際機関の代表となること

KMKの組織体制

上部組織=各州文部大臣会議(年に4回の会議)16州の文部学術大臣が集って議論する。年に4回の会議のうちの2~3回はベルリンで開催し、もう1~2回は様々な州で開催している。各州文部大臣会議では、文部大臣が議長をする。

その下にテーマ別の委員会が設置されている。学校制度、大学、スポーツなど、教育に関わる様々なテーマについての専門会議。それぞれ委員会は、州ごとの体制を反映する形で構成される。例えば、各州の学校教育を管轄する部署の部長(局長)が委員会のメンバーをしている。KMKの意思決定はコンセンサス形式で行なっている。州ごとに考え方が異なるため、意思決定に結びつけるのはとても難しい。文部大臣会議、委員会ともに各州を代表して参加しているため多数決ではなく、コンセンサス形式が採用されている。

委員会は常設、会議日程も1年前に決められている。その下にワーキンググループがあり、そこには担当者クラスが集まる。KMKが行う2つの決定のカテゴリー、それぞれが文書になる。

1:合意 → 構造的なことに関わる決定。例えば、ドイツの大学入学資格を得られるためには、どれくらい授業数を受けなければいけないかなど

2:勧告 → よりソフトな性格を持っているもの。方向性を打ち出すもの。例えば、民主主義教育について、人権教育について、多文化共生についてなどの方向性を打ち出す。

 

KMKの決定(合意・勧告)は法的影響力を有していない。あくまでも努力義務になる。そして実際に実施する責任は各州が負う。しかし合意は、確実に実施される。例えば、卒業資格であれば、ひとつの州が異なった制度をとっていると他の州で使えなくなることになる。そうしたリスクを犯す州はない。

また、各州文部大臣会議における決定は、修正できないものではない。修正動議があれば変えることができる。もうひとつ大切なことは、勧告を出したあとの政治状況によって、勧告が変わることもある。例えば、近年は難民の受け入れが大きな課題になっており、それに伴って民主主義教育、人権教育のニーズが高まっている。なぜならドイツ社会には、難民の受け入れに拒否的な勢力があり、早急に対応しなければいけないテーマになっている。

AfDの台頭についてどう考えるか。

学校教育の動き方によってこうした動きは是正できる。しかし、学校だけで担うことができない。学校現場が教育に責任を持っているが、各州の学校教育プログラムの改変には時間がかかる。そうした意味で期待されるのは現場の教師の役割である。今、社会で起こっているテーマを授業のなかで積極的に取り上げていくことが期待されている。もちろん各州文部大臣や各州としても教育カリキュラムの変更などの議論はしている。

ドイツで起きている過激な右派の台頭が何を意味しているかというと、民主主義は自明のものではないこと。民主主義を積極的に基礎教育の中で教えていかなければならないと認識している。基礎教育として教える現場は学校になる。社会系の科目のなかでナチズムについてなど教えているわけだが、一見関係ないように見えるそれぞれの科目においても共通する。例えば、教え方や意見を尊重するなどの基本原則が大事だと考えている。違いを尊重することは学校が教えなければいけない最も大切なことなのかもしれない。

民主主義教育・政治教育などを学校のプログラムとして位置付けていくことは可能である。しかし、それだけでなく学校という生活空間の現場において、民主主義を生徒が体験し、参画する経験をする必要がある。例えば、学級における学級委員や生徒会の組織だけでなく、もしくは学校における日常的な意思決定、カフェテリアをどうするのか?壁の色はどうするのか?など、生徒の意思決定に影響を持たせ、民主主義の経験をさせていく必要がある。学校はそうした意味で科目を教えることだけでなく、民主主義的な生活空間として捉える。

ナチズムに対抗する3つの方法

1:学校の科目 :指導要綱

2:学校という生活空間における民主主義の経験

3:プロジェクト(学外)

プロジェクトというのは、日付に関連付けられる。例えば、11/9は水晶の夜と呼ばれ、ポジティブにもネガティブにも捉えられている。ほかにも1/27は、アウシュビッツが解放された記念日として指定し、各学校において強制収容所で何が起こったかを振り返る日にしている。この目的は、ドイツの歴史に学び、その歴史を二度と繰り返さないために各州文部大臣会議として指定している。

代表的な勧告や合意

・勧告:民主主義教育についての勧告(現在、改変されている)

・合意:人権教育についての合意、過去を記憶する文化について合意、ドイツユダヤ史に関する合意、多文化教育に関する合意

ドイツの学校教育では、歴史科、政治・社会科において、必ず民主主義の原理・原則の基礎について学ぶ。5年生くらいから学ぶようになっている。どの州の生徒であっても、一定期間は政治や民主主義、ナチズムについて必ず学ぶ。

ドイツの学校教員が、歴史・政治・社会科目を教えるためには5~6年大学で所定の単位をおさめ、かつ教育実習を経ている必要がある。そしてそのカリキュラムはKMKで事細かに定めている。政治学を専攻する場合に、一般政治理論、政治的なアイデアや組織、基本権、人権政策、政党、市民団体、社会運動、マスメディアなどを学ぶ必要がある。大学でしっかりと政治学をおさめた人であれば、常に政治的な動向について分析し、説明できる能力があると考えている。だから選挙によって分析して教えることができないと考えてはない。

しかし、もちろん教員になった後の継続教育は常に用意されている。教員継続研究所などが各州にある。学校のパートナーとなっている財団が継続教育のプログラムを提供していることもある。または、各州の政治教育センターももちろん教員向けのプログラムを提供している。KMKでも教育者を対応した研修や会議も行なっている。政党財団もそれぞれ政治教育のプログラムを提供している。ドイツの教員には年に5日間、継続教育を受けるために学校を休む権利がある。しかしこれは権利であり、5日間休まなければいけないという義務ではない。

近年重要になっているのは、教員があるテーマについて話す、あるいはワークショップをやるといった時に、適切な教材を素早く入手できることである。スピーディな課題の把握が大事なのかというと、ここ数年、ドイツの教員は雑務で忙しくなっている。教育以外の部分に時間を取られるようになっている。また、それに追い打ちをかけて、基礎的な社会的スキルを学んできていない生徒もいる。そうした生徒への対応も考えなければいけない。膨大な課題があるために、迅速的に対応できる教材が重要になっている。


※ドイツのための選択肢(ドイツのためのせんたくし、独: Alternative für Deutschland、略称:AfD)

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NPO法人Rightsは、「未来を長く生きる若者は未来の決定により大きな責任を」との思いから、選挙権・被選挙権年齢の引き下げと政治教育の充実を2つの柱に、2000年から若者の政治参加をめざし活動してきました。

現在は、政治教育や若者政策の提言、政治家への働きかけに加え、自治体における若者参画プログラムの拡充、学生・若者団体への支援・助言などの活動を行っています。