理事の土肥潤也です。2017年11月11日〜19日までの約1週間、ドイツ連邦外務省の招聘を受け「ドイツにおける政治教育」をテーマに視察をしてきました。

2014年9月にも同様のテーマで、NPO法人Rightsが主催する視察に参加し、現在もドイツのまちづくりや子ども参加について研究をする研究室に所属していることから、自分のドイツ研究を含めて、何回かに分けて、視察報告の記事をブログにアップしていきたいと思います。

学校外での投票シュミレーション”U18″

日本でも様々なところで若者向けの模擬選挙が行われていますが、ドイツでは実際の選挙に合わせて18歳以下を対象にした模擬選挙プログラム”U18″が実施されています。

ちなみにドイツ国内には、模擬選挙プログラムが大きく2種類存在しており、ひとつは”Junior Wahl(ジュニア選挙)”という学校内を対象としたもので、Kumulus eVというNGOが主催しています。

もうひとつが今回紹介する学校外を主な対象とした“U18”のプログラムです。

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今回、ヒアリングに対応してくださったのが、このU18の担当のアンネさん(写真右)と青少年政策担当のルートヴィヒさん(写真左)です。

“U18″は、連邦若者協議会(DBJR)がコーディネートするプログラムで、1996年から開始されました。コーディネートすると表現したのは、DBJRだけで実施しているのではなく、ドイツ子ども支援協会や、各州の若者協議会とも協力して実施しているからです。(連邦家族省、連邦政治教育センターからの助成金を受けて開催)

はじめて実施された2002年の選挙では約2万人の参加者だったこのプログラムも、2017年の連邦議会選挙では約22万人の参加者に広がり、年を重ねるごとに知名度を高めています。

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U18の選挙結果は、実際の選挙の9日前に開票されます。投票終了は18時で、19時から随時開票を行います。

開票の速報は、実際の選挙さながらにテレビスタジオで発信され、報道各局が取材に来ます。各党の青年部もゲストに来てもらっているようです。

若者のボトプアップから始まったU18

担当者のアンネさんによれば、欧州各国でも模擬選挙は実施されているけれど、”U18″による模擬選挙プログラムは成り立ちが大きく異なっていると強調されました。

ほとんどの国で実施される模擬選挙は、教育機関を中心とした大人から始められたトップダウンのものです。

しかし、”U18″はべルリンのユースセンターに集っていた10人の若者たちが、「自分たちには選挙権がなく、選挙に行けないことは悔しい。それだったら自分たちでやってしまえ!」と始めたもので、それが1996年のことだったそうです。

成り立ちが学校外のユースセンターだったということもあり、”U18″の投票所は学校内だけではなく、学校外を中心に様々な場所で行われます。2017年の連邦議会選挙では、1649箇所の投票所が登録されました。

路面電車の中も投票所!?

投票所登録はとても簡単で、ネットのフォームから申し込みをすれば、投票用紙のpdfデータがダウンロードできます。そのデータをもとに各投票所で自由に作った投票箱に若者たちが模擬投票を行います。

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例えばこの投票所では、クジラの投票箱を子どもたちが作りました。なんと路面電車の中を投票所にしたグループもあったとのことです。2014年に訪問したベルリンのパンコウ地区のユースセンターでは、家型の投票箱を子どもたちが作っていました。

U18に参加するための条件は、「18歳未満であること」以外にはなく、事務局で把握している中では、6~7歳(日本でいう小学1年生)の子どもも参加しているとのことでした。

投票前の取り組み

U18の投票の前には、下のようなパンフレットが配られ、若者たちは各党の政策について確認することができます。

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このパンフレットには、若者たちの声をもとにU18事務局で選定した18のテーマについての各党の政策が書かれています。

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なおこのパンフレットの各党の政策は、それぞれのテーマごとの政策の質問に対する政党の回答をそのまま載せているということです。(回答がなかった政党の政策は載せていないそうですが、一党を除くすべての政党からは回答があったようです。)

他にも各党の候補者を呼んで討論会を開催したり、自主的な勉強会を開いたりと、投票所ごとに取り組みは様々で、ちょうど9月の連邦議会選挙の真っ最中にドイツ視察に行かれた林大介さん(東洋大学)のブログ(ドイツでは選挙期間中に小学生と候補者が討論する!!【ドイツのシティズンシップ教育視察2017 part.2】)によれば、U18の呼びかけで、小学生と候補者の討論会も開催されたとのこと。

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そして実際の結果がこの通り。左がU18、右が実際の連邦議会選挙の結果です。

「緑の党」(グラフの緑色)の支持がU18の方が多く、近年支持を伸ばしている「AfD(ドイツのための選択肢)」(グラフの水色)という右派政党(極右と紹介されることもある)の支持が少ないほか、ほとんど結果が変わらないことがわかります。

なぜU18が重要なのか。

10人の若者たちによってユースセンターで始められたこのプログラムが、なぜドイツ全国を巻き込み、約22万人に広がるものになったのか、なぜU18が重要なのかについて、政治が若者たちと向き合ってこなかったことが背景にあるとアンネさんは仰られていました。

「少子高齢化が進み、有権者の大部分が高齢者になっている。政治家の高齢化も進んでいるため、政治家は若者よりも高齢者向けのテーマを扱うことが多くなっている

また、政治家や高齢層の人たちは、若者に対してネガティブなイメージを持っている人が多い。ネガティブなイメージというのは、若者というのは怠け者であって、政治に無関心で、真剣に議論したり、取り組んだりしていないというもの。

私たちはこれは思い込みだと思っているし、仮にそうだとしたら、それは大人の責任だと考えている。高齢者向けの政治になっていて、若者に外方を向かれているのだと考えている。それはつまり大人の責任である。

社会全体は若者たちをなめているようにも感じる。例えば、大人たちの会話を聞くと、「最近の若者は…」というのはよく聞くし、「みんなスマホばかり見ている」「若者たちの将来の夢なんてどうせみんなyoutuberなんでしょ?」と言って、小馬鹿にしている。

しかし、私たちはこれは現実ではないと知っている。実際に若者たちを見ると、高齢層よりも積極的に社会参加している人が多い。」

Anne(DBJR)

こうした状況を聞くと、日本で若者参加を進めるときの状況とほとんど同じ状況で、一緒に視察をしたメンバーと「日本と同じじゃん」と思わず笑ってしまいました。

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どうすれば若者が社会を変えることができるか教える必要がある。

そして、アンネさんは「若者の本当の関心と向き合ってこなかった」と次のように続けます。

政治は若者の本当の関心に向き合ってこなかった。

学校でも政治の科目があるが、どちらかというと非常に形式的だと感じる。例えば、統治機構の仕組みなどを説明するばかりのドライで面白みがない内容が多かった。現在は状況が変わり、現実の政治問題・社会問題に焦点をあてたり、というスタイルの授業も少しずつ増えているが、まだまだ不足していると思う。

こうした科目で何より不足しているのは、若者自らの政治的な立場、ポジションを形成する方法を教えていないことだと思う。

若者がどうすれば社会に参画できるのか、現在ある社会・政治の仕組みに関わり、どこで何をすれば、社会を変えることができるのか、などエンゲイジメントの方法を教える必要がある。

しかし、ご存知のようにドイツは連邦制で州によって制度が異なるなど、仕組みが複雑なので、ただ仕組みを教えられるだけでは、「ああ難しい」「ああめんどくさい」という風に感じてしまって、「自分には知識がない、スキルがない」とだけ思い込んで、逆効果になってしまう。」

そういう状況だからこそ、(体験的に政治を学べる)U18を始め、推進している。

このプログラムに参加する子どもたちには、「動物が好き」「環境に関心がある」それだけで政治的な意味があると伝えている。ほかにも「移民・難民の友達が国外送還されてしまう」など、それはまさに政治的なテーマなんだと伝えている。

他にも様々なテーマに関心がある若者に、個人的な関心と思っている事柄のほとんどは政治的なテーマなんだということを教えている。個人的な関心に閉じこもってしまっている若者たちにアプローチをして、彼らが持っている関心は政治的な関心なんだということを掘り起こすことが重要なことだと考えている。」

Anne (DBJR)

若者の政治離れ?政治の若者離れ?

アンネさんの言葉を聞いて思い出したのは、一緒にこのドイツ視察をともにしたメンバーのひとりである原田謙介さん(NPO法人Youth Create)の言葉です。

「若者の政治離れではなく、政治の若者離れ」

ドイツと私たちが暮らす日本が抱えている課題はあまり変わらないように思います。

日本社会も政治の若者離れを真摯に受け止め、若者の本当の関心を取り戻さなればいけない。この視察を経て、より強くそう思います。

余談ですが、アンネさんとは2014年にも会っており、今回はまさかの再会!

せっかくなので一緒に写真を撮りましたが、自分の背の低さにがっくり 笑

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この記事の投稿者

土肥 潤也
土肥 潤也

NPO法人Rights理事。子ども・若者の地域参画コーディネーター。95年静岡県焼津市生まれ。NPO法人わかもののまち静岡代表理事。早稲田大学大学院社会科学研究科 修士課程(2017年4月から)。


専門は、子ども・若者の地域参加、まちづくり参加など。