(日本経済新聞2008年6月1日)
 七十五歳以上の後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が政治問題になっている折でもあり、先ごろ閣議決定された「高齢社会白書」を読んでみた。
 政府の各種白書は基礎的なデータを知るのに便利で、意外に面白いものもある。白書は世界のどの国も経験したことのない日本の高齢社会の姿を、こんな具合に説明している。
 一、二〇〇五年に五人に一人だった六十五歳以上の高齢者は、五五年になると二・五人に一人となる
 一、〇五年は現役世代三・三人で高齢者一人を支えたが、五五年には一・三人で高齢者一人を支える
 一、〇五年に日本の高齢化率は二〇・一%に達し、イタリア(一九・七%)を抜いて世界最高となった
 こうした現実を踏まえれば、政治家が高齢者の声に敏感に反応するのは当然だ。日本の政治は、高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」の様相を一段と強めていくことになるだろう。
 とりわけ大きいのが一九四七年から四九年に生まれた「団塊の世代」の存在だ。この世代が六十五歳に到達する二〇一二年から一四年にかけて、毎年約百万人ずつ高齢者が増える。
 白書は団塊の世代が社会に与えた影響として高学歴化を挙げる。高校や大学への進学率は、この世代から目立って上昇した。それまでは五〇%程度だった高校進学率は、団塊の世代が高校生になった一九六二年には六四%に上昇した。
 就業者に占める雇用者の比率は約七割で、日本社会にサラリーマンの姿を定着させた。団塊の世代が定年退職の年齢に差しかかり、これからは地域に拠点を移す人が増えていく。
 シルバー民主主義に拍車をかける別の深刻な要因もある。それは若い世代の政治への無関心だ。
 〇五年の郵政選挙の全体の投票率は六七・五一%で、前回比七・六五ポイントアップした。依然として低い水準だったが、二十―三十四歳の若い世代の投票率は軒並み一〇ポイント以上上昇した。
 残念ながらこの傾向は一過性で終わってしまった。総務省がサンプル調査した〇七年参院選の年齢別投票率を見ると、若い世代の上昇率は他の世代とあまり差がない。
 この参院選の全体の投票率は五八・六四%だった。二十―二十四歳の投票率は三二・八二%で、二十五―二十九歳でも三八・九三%にすぎない。投票率が高いのは前期高齢者の世代だ。六十五―六十九歳は七七・七二%、七十―七十四歳は七五・六一%である。五十五歳から七十九歳までの年代層ではいずれも七〇%を超えている。
 総務省の人口推計(〇七年七月)を用いて、年齢別の投票者数を計算してみる。二十―二十四歳は約二百三十二万人だが、六十五―六十九歳は約六百二万人になる。最も投票者数が多いのは団塊の世代を含む五十五―五十九歳の約七百四十一万人で、二十―二十四歳の三・二倍に相当する。
 こうした偏りを少しでも是正するために、一〇年の国民投票法の施行までに、選挙権年齢の十八歳への引き下げを必ず実現することが重要だ。国民投票法は本則で投票権を十八歳以上と定めたが、十八歳参政権の実現が前提条件となっている。若い世代の政治参加を拡大させるこの好機を逃してはならない。
 若い世代にはぜひ投票に行ってもらいたいが、手をこまぬいているわけにはいかないだろう。選挙への関心を高める政治教育を充実させることは待ったなしだ。若い世代の声が政治に反映されないことは、社会全体の不利益である。
(編集委員 西田睦美)

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